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週刊代々木忠

父の仕事

2009年10月02日(金)



 今から26年前、僕は「ザ・ドキュメント 出産」という作品を撮った。


 家に帰ってその映像をチェックしているとき、当時幼稚園に通う上の娘が2階から下りてきた。「お父さん、何、見てるの?」。僕は困ったなぁと思った。この作品は、夫婦の性行為から出産までが記録されている。


 娘には「夫婦の営みだとか、赤ちゃんが生まれるところの映画だよ」というような意味の説明をした。すると「私も見たい」と言う。そんな娘に「見てはいけない」と僕は言わなかった。何事も隠すまいと思ったからである。


 もし隠せば、あとでこっそり娘は見るかもしれない。しかも、見てはいけないものを見ているという罪悪感を持ちながら。僕は娘にそんな罪悪感を味わってほしくなかった。だから「じゃあ、なにか上に羽織っていらっしゃい」と答えた。たしか寒い季節だった。


 娘は上に羽織ってきて、作品を全部見た。そこには、お腹をいたわりつつバックからしている絵もあった。もし彼女がショックを受けたら、何を話そうかと僕は考えていた。娘は「すごーい!」とは言ったものの、ショックを受けた様子はない。


 春が訪れて小学校にあがった娘が、妹とふたりで風呂に入っているとき、トイレに向かう僕の耳に、キャッキャ騒ぐ娘たちの声が飛び込んできた。よく聞くと、上の娘が出産のビデオについて話している。「おまんじゅう、ハサミで切るのよ」。妹は「痛そー。えー、切らなきゃ出てこないのぉ?」。


 それを聞きながら、僕は見せてよかったなぁと思った。それほどショックを受けることなく、娘は娘なりに咀嚼(そしゃく)できたのだろう。自分たちもそういうふうにして生まれてきたのだと理解してくれたのだろう。


 3年ほど前、「ザ・面接 VOL.90 女はいつも濡れたいの」に幼稚園の保母さん(保育士)が出演した。今どきの園児たちは親の性行為を見ていて、会話も幼稚園の会話ではなく、やることもすごいと言う。ときには、先生もいじられ濡れちゃって、トイレでオナニーしていると言うから驚いた。


 僕らが想像している以上に、子どもたちは好奇心旺盛だ。知らないのは親ばかりかもしれない。僕は娘にビデオを見せた夜のことを思い出していた。


 その娘が中学2年になったとき、僕は彼女にこんなことを言った。「お父さんに対して秘密を持ったってかまわない。警察のご厄介になってもいい。ただし、どんなことが起きようとも、そこから何かを学びなさい。どんな出来事にも感謝できるような人間になれ。もし、どうしても自分ひとりでは対処しきれない場合には、お父さんに相談してくれ。僕には命に代えてでも君を守る準備があるから」。


 娘は「お父さん、わかった。ありがとう」と言った。僕はそれですごく解放されたのを覚えている。


 こういう仕事をしているのは、娘の友達も知っている。思春期ということもあり、僕の職業が理由でいじめられたりしないかと、そのへんは多少心配していた。子どもも独立した人格として認めていくし、認めて初めて僕も認めてもらえる。あるときから僕はそう意識するようになった。


 僕はいろんな女の子たちを見てきたからこそ、そう意識したのかもしれない。もしもこの仕事をやっていなければ、娘に対する眼差しもまったく違ったものになっていたことだろう。


 そして、自分に娘がいるから、現場で女の子と接するときに「娘にこれができるのか?」という自問が、ふと頭をよぎることがある。ビデオに出る女の子たちを見せ物として晒(さら)すのではなく、「ビデオに出てよかった」「自分が見えた」と彼女たちに思ってもらいたい。それによって、僕は初めて救われるのではないかと。


 いずれにせよ、娘には現場が反映され、現場には娘への思いが反映しているように思われるのである。


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