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週刊代々木忠

表社会と裏社会の狭間

2009年01月23日(金)

 前回のブログで新田が指摘したように、僕の本能には傷がついていて、成熟していないのだと思う。幼児体験もそうだけれど、そればかりではなく、僕はずっとそういう人生を歩んできている。


 生まれ故郷の九州にいるとき、ろくに学校にも行っていない。中学の頃からどうにもならなかったし、入った高校は退学になり、それから定時制に通った。でも、勉強が頭に入ってこない。苦痛なのだ。それよりも生きることに、僕は切羽詰まっていた。


 学歴がないので、就職はまともにできない。大阪の花屋に入ったときには、まだ奉公という概念が残っている時代だったから、住み込みで使ってもらった。いずれにしても、選択肢が非常に狭かったのは事実だ。


 その後も生きていくなかで、みんなが当たり前に暮らしている社会へ入っていきたくても、僕にはそのパスポートがない。社会で生きていく術がない。仲間に入れてほしくても、入れてもらえない。


 1972年から始まった「日活ロマンポルノ裁判」のときにも、攻撃は僕に集中した。学歴もなく元極道だから、検察側もいちばん攻めやすいと思ったはずである。


 今この仕事をやっていても、それを感じる。AVだからという社会的な差別。たとえば事務所ひとつ決めるのにも、なかなか貸してはもらえない。ビルは空いているのに、いざ契約の段になって、AVメーカーだからと断られる。


 社会に入っていけなかったのは、小指がないという事情もある。小指がないことがわかると、その場の空気が変わるのである。それがたまらなくイヤだった。


 たとえば、むかしゴルフを始めようと思って、ゴルフ練習場でコーチについて教えてもらうことにした。最初はふつうに接してくれるのだが、「こっちの小指を絡ませて」と言って僕の小指を見た途端、いきなり寡黙になり空気が変わる。一事が万事そんな具合で、数え上げればキリがない。小指をつめたのは27歳のときだった。


 だから僕はいつの間にか、できるだけ人前に出ないようになっていった。東京には幼なじみもいない。極道をしていた頃の友達も、個人的にはいいのだが、彼の背後には彼の思惑とはまったく違った社会があり、しかもそっちの力は強いので、何が起きるかわからない。


 そういう意味では、僕はヤクザにもカタギにも、どちらにも入れなかった男なのかもしれない。ヤクザの世界では生きられない。でも、カタギの世界でも受け入れてもらえない。僕は表と裏の間にあるわずかな皮膜の部分で生きるしかなかったように思う。


 それでも、どうにかこうにかやってこられたのは、自分の中にある負けん気のおかげだろうか。追い込まれたときに、自分の中から何かが出てくるような気がする。逆に言えば、僕は追い込まれないと本当の力が出てこない人間なのかとも思う。


 日活ロマンポルノ裁判でも、いちばん簡単に落とせそうな僕が落ちなかったのは、検察も計算違いだっただろう。9年にもおよんだこの裁判は、高裁が無罪判決を出したことにより、検察側の敗訴という形で幕を閉じた。


 追い込まれないと、という意味では、アダルトの現場でもコンテなどを立てたら絶対にダメなのだ。なんの用意もなく現場に行って、相手と本当に向き合えるかどうかが僕の勝負である。


 たとえば「ザ・面接」シリーズでも、この子は平本君とやらしたらいいとか、これは銀次だなぁとかっていう思いもないわけではないが、それをあえてしない。「ザ・面接」シリーズは、男優たちの出る順番を決めるクジ引きから始まるが、あれにはそういう意味がある。


 プロデューサー面接で女の子のプロフィールや特徴といったデータは、男優も事前に読んでいる。男優たちは自分の引き出しを持っているから、その気になれば自分の中でどう対応するかの準備というかプランができてしまう。でも、それじゃあ面白くない。だから僕は、誰がどの子とあたるかわからないクジ引きという方法を取る。


 余談だが、うちのプロデューサーですら、あの冒頭にやるクジ引きは、あらかじめ順番だけ決めておいて、表向きだけクジ引きの風景を撮っていると思っていたようだ。男優が忘年会でクジ引きの思い出話をしたとき、「え? あれホントにやってるの?」とプロデューサーは驚いていた。


 こういう時代だから、今このブログを読んでくれている人のなかにも、大変な思いをしている人は少なからずいることだろう。でも、僕のような人間でも、きょうまで生きてこられたのだ。人生どうにかなるものである。


クジ04-1.jpg
クジ引きの結果は神のみぞ知る。



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