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アテナ映像

週刊代々木忠

娘の結婚
  2週間前、下の娘が結婚した。このブログで「娘の失恋」という話を書いてから、早いもので2年になる。当時、娘にこれといって何もできなかったのだけれど、それでも心配だけはしていた。

 新しい彼ができたと知ったのは、去年の秋口である。娘が真剣なのは見ていてわかった。だから、ローマ国際映画祭で一緒にレッドカーペットを歩いているときも、こうして二人で旅行するのはこれが最後なんだろうなぁと思った。

 年の瀬も押し迫った頃、「お正月に彼も呼ばない?」と水を向けてみた。すでに嫁いだ上の娘夫婦も2日には来るから、そこに合わせて彼も一緒に食事をしようと提案したのだ。それまで娘を迎えに来たり、送ってきてくれたときに玄関口で挨拶を交わすことはあったけれど、ちゃんと話をするのはその日が初めてだった。

 みんなで食卓を囲んだとき、僕は「娘も真剣なようだし、結婚しなよ」と彼に向かって言った。突然の言葉に、彼は「はぁ…」と答えたあと、すぐに「はいっ、ありがとうございます!」と続けた。男にとって彼女の父親に会うというのは、それだけで緊張するものだろう。彼は今、派遣の仕事をしていると娘からは聞いていた。だから正社員になってから、結婚の話を正式にするつもりだとも。

 人を好きになるというのは当たり前のことだが、その当たり前が今はなにかと難しい時代である。僕は、彼と娘に「好き」という気持ちを大切に育んでいってほしいと思ったのだ。生活をしていくうえでは確かにおカネも重要だが、二人で力を合わせれば、そんなものはどうにかなっていく。

 彼はすぐに両親に話したようで、それからとんとん拍子に話が進み、3カ月後には結納代わりの食事会が開かれ、挙式の日取りも決まった。

 ただ、正月に僕が先手を打ったのには、二人の気持ちを大切にしてほしいという思いとは別に、実は僕のほうの理由もあった。それはこういうことである。かつて上の娘から「お父さん、私、結婚したい」といきなり言われたとき、僕は内心かなり動揺したのを覚えている。だから、あのときみたいに動揺しないためには、こちらから先手を打つしかないと思っていたのだ。

 ふり返れば、二人の娘に対して僕はいつも先手を打ってきたような気がする。彼女たちが思春期に差しかかったとき、何か問題を起こしてから、後でそれを注意するのではなく、まずこちらが無条件に娘を信じようと思った。信じたからにはいちいち口を出したり、チェックを入れたりはしない。僕が出ていくことがあるとすれば、娘からSOSが来たときだけである。そういう思いを先に娘たちに僕は伝えていた。

 失恋ではずいぶん心配した娘も好きな人とめでたく結婚し、先手を打った僕はその結婚に動揺することもなく、すべてはうまくいったかに思えたが、しかしである。結婚式当日、やはり寂しいのだ。彼の家族や親戚に受け入れてもらっている姿を目にするにつけ、ホッとすると同時に「ああ、向こうの人になっちゃうんだなぁ」という実感がひしひしと湧いてくる。

 上の娘のときには、これほどの寂しさを感じた記憶がない。披露宴に親戚は呼ばず、両家だけの食事会だったし、まだ下がいるから……というのも大きかったに違いない。上はなんでも自分で計画し行動するから、手がかからなかった。そのぶん、下に僕は心を揺さぶられたのだと思う。

 披露宴の最後には両親への言葉というのがあるが、娘が話すその中にこんなくだりがあった。「『昌美の好きなようにすればいい。お父さんは、昌美が本当に苦しいときに絶対に助けるから』その言葉が、私にとって何度も励みになりました」。そんなことを言われると、人前にもかかわらず不覚にも泣けるのである。

 披露宴がお開きになって帰宅した僕は、疲れたから風呂にでも入ろうと浴室に向かう途中、よせばいいのに娘の部屋のドアをあけてしまう。モノがなくなってガランとした空間。あける前からわかりきっていたはずの光景が目に飛び込んでくる。…………。

 これが息子ならば、おそらくこんな寂しさは感じないのだろう。父親にとって娘とはやはり特別な存在なのだとあらためて思い知らされる。では、女房はどうなんだろうか?

 式の翌朝、寝ていると部屋のインターフォンが鳴った。「お父さん、起きてる?」。ダイニングにいる女房からである。今まで目覚めを気にかけられたことなどなかったのに。

 最初二人だったのが、子どもができて、その子が嫁に行って、また二人きりになる。お互い歳をとったけれど、もとに戻ったのだと思う。これまでは子どものことが夫婦の話題の中心にあった。夫婦喧嘩をしたときには子どもが中に入ったり、緩衝地帯になってくれた。だが、これからはそれもない。

 その意味では単にもとに戻ったのではなく、夫婦二人の生活が新たに始まったのだ。きっと女房も同じことを考えているから、インターフォンを鳴らしたのだろう。何十年かぶりに女房と二人の旅でも計画してみようかな……と僕は思った。

 
2011年10月07日