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アテナ映像

週刊代々木忠

散りぎわの美学
  都内の桜はこの土日がきっと最後の見頃だろう。花見のシーズンがやってくると、思い出す出来事がある。といっても、桜にまつわる話ではないのだが。

 まだ小学校の低学年のころだ。僕は父方の祖父母の家に預けられていた。祖父が大工の棟梁だったこともあり、いくつも部屋のある家だった。

 その人は3畳間に下宿していた。僕の父と同じくらいの年恰好だが、何の仕事をしていたのかは覚えていない。覚えているのは、彼が剣道の達人であり、隣町の道場まで教えに行っていたことと、僕が見かけるときは決まって庭先で素振りをしていたことだ。父は僕に厳しくあたったけれど、彼はいつもやさしく、僕にとってはある意味、父以上の存在だった。

 その彼がある日、「花火を見につれてってやる」と言う。家の近くを流れる紫川が海に流れ込むあたりまで2人して出かけていった。大輪の花火が夜空に打ち上げられるのを、僕は息を飲んで見上げていた。ふいに彼が言った。「どう?」。「きれい!」と幼い僕は答えた。「きれいなだけかい?」。結局、僕は答えが出てこなかった。

 答えられなかったという事実が、ずっと僕の中に残った。成人した十数年後、実際に花火を見ていたときか否かは定かでないものの、「ああ、きれいだけど、儚(はかな)いんだよなぁ……」と思った。

 ふだん花にはとりわけ関心がなくとも、桜だけは別という人は多いはずだ。代表格であるソメイヨシノは種子では増えず、増やそうとすれば接ぎ木しかないと言われている。つまり、今あるソメイヨシノに親・子・孫はなく、そのほとんどがクローンだと言うのである。だから、同じ場所の木々は一斉に咲きはじめ、一斉に散りはじめる。

 満開からたった1週間で花吹雪。多くの人々に愛(め)でられ、惜しまれながら、白とピンクのあいだの淡い色が風に舞う。

 もうちょっと見ていられたらと、つい考えてしまうのは人間の悪いクセで、何かに執着している限り、次はやってこない。桜は人間のそんな思いをよそに、散ったあと、あっと言う間に新緑を纏(まと)い、日を追うごとに大きく深い緑色へと成長してゆく。夏はもうすぐそこまで来ているよと言わんばかりに。
2014年04月04日