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アテナ映像

週刊代々木忠

続・突発性難聴
  右耳の治る確率が五分五分に毛の生えた程度なら、ステロイド治療はやっぱりいやだ。「先生、ほかに方法はないんですかね?」とダメ元で訊いてはみたものの、やっぱりないのだろう。

 と思ったら、「どうしてもということでしたら、内服薬を飲みながら、通院という方法もあります」という答え。そっちのほうがいい。「確率的にはずいぶん落ちます。治る保証はできませんよ」と言われたが、入院してもどっちみち60%なんだからと、僕は通院を選んだ。

 処方された内服薬は全部で4種類。結局、そのうちの1つはステロイドなのだ。でも、これくらいの量ならばナーバスになる必要もないだろう。ほかはビタミンB12を補うもの、代謝を促進するもの、そして胃薬。ステロイドの錠剤は朝2錠、昼2錠をまず4日間服用(晩に飲まないのは眠れなくなるからだ)。そして次の4日間は朝昼1錠ずつ、次は朝1錠のみと半分ずつ減ってゆく。

 ステロイドを飲むと気分が明るくなるというか、パワフルになる。場合によっては自分で自分をコントロールできないくらいに。「何かあったら、すぐに来てください」と医者が言う。執拗に入院を勧めるのも、ステロイドの大量投与は管理下でやりたいからだろうな……そんな印象を僕は持った。

 ところが、薬を飲んで通院しても、目に見えて(いや、耳に聞こえてと言うべきか)効果がない。「確率的にはずいぶん落ちます。治る保証はできませんよ」という言葉どおりなのである。

 話は変わるが、理想的な骨格になれば病気もしないと聞き、かれこれ9年間、週に1回、骨格矯正のための力学療法を受けている。力学療法の権威であるH先生は歯科医を開業しており、施術は歯科治療室を通り抜けたところにある部屋で行なっている。じつは突発性難聴で総合病院に通院を始めた週も、H先生のところには来ているのだが、あわただしそうだし、直接関係ないかと思って、耳の件は言わなかった。

 翌週、何気なく「先生、オレ、右の耳がいきなり聞こえなくなっちゃったんですよ」と言ったら、「ああ、頸椎のズレだよ!」と簡単に言われた。西洋医学的に言うと、突発性難聴の原因は特定されていない。でも、まぁ力学療法の見地からすればそうなるのだろうと僕は思った。

 H先生がいつもより念入りに股関節を施術してくれる。「今どこに来る? 首に来なかったかい?」。「いや、このへんに来ました」と僕は胸の裏側を指さす。「ああ、わかった」といろいろ股関節を調整してくれるなかで、今度は胸の裏側に加えて、首にもピッと反応があった。僕はとっさに聞こえる左耳を手の平でふさいだ。隣の治療室で歯を削る音が聞こえる。左耳と比べれば、音は小さいし、実際よりも高い音だ。でも、突発性難聴になってから初めて右耳で聞く音だった。「先生! 来た! 来た!」思わず僕は大きな声をあげていた。

 通院している総合病院では毎週、聴力検査を受けている。1回目と2回目は数値に変化はなかったが、H先生の施術で聞こえるようになってから、数値も上がってきている。「だいぶ回復してきましたね。このまま行くといいですね」と主治医が言う。

 この病院に来た理由は、聴神経腫瘍があるかどうかをMRIで調べてもらうためだった。肝心のMRIはずっと予約で埋まっており、僕が検査してもらえるのは5月31日。大きな病院ではよくある話だ。だが、腫瘍の可能性はもうないだろうと僕自身は思っている。

 現在、右耳は7割がた回復した。ちょっと音が割れたり、風が吹いているような音はしているけれど、距離感や方向はもうだいたいわかる。なので、かりにこれ以上よくならなかったとしても、さほど不自由はしない。ひと昔前なら、年をとれば耳は遠くなるもので、ほとんどの人がそれを当たり前に受け入れていた。「悪口だけは聞こえるんだから……」という笑い話もあちこちで聞かれたものだ。

 年を重ねれば、人間あちこちにガタが来る。僕はまだ好きな仕事を続けていられる。欲を言えばきりがないのである。
2014年05月09日