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アテナ映像

週刊代々木忠

ガアヤン酋長の教え
 

 「女の子がみんなトップレスで、腰蓑(こしみの)の下にはパンツもはいていない。そんな島があるんだよ」------ 今から30年ほど前、友人のその言葉が、初めてヤップに行くキッカケだった。そんな島があるなら、ぜひ見てみたいと。


 ところが当時は、めぼしいガイドブックもなかった。地図を見れば、ミクロネシア連邦のヤップ諸島には、ヤップ本島、ガギールトミール島、マープ島、ルモン島、そしてそれ以外にも小さな島が点在していることがわかる。でも、島の様子まではよくわからない。


 調べるうちに、日本とヤップを結ぶ友好協会があることを知り、そこの会長をされているSさんに相談してみた。すると、「私も近々行くので、その日でよければ一緒に行きましょう」という話になった。

 現地に着いて、あれは日曜だったのか、坂道を登りきった所に教会があるのだが、トップレスの女性たちが続々と礼拝に向かう。「うわぁ、すごいなぁ、本当だったんだぁ」と僕はドキドキしながらも、なるべく平静をよそおって道行く彼女たちを眺めていた。

 夕方になって、Sさんが「これからマープ島という所まで行くけど、ちょっと行ってみる?」と誘ってくれたので、連れていってもらうことにした。

 Sさんが用事を済ませる間、僕は島を見てまわり、そろそろ帰ろうかという段になって、激しいスコールに見舞われた。なぜかスコールはなかなか降りやまない。南の島だから雨に濡れることは苦にもならないが、ジープが坂道を登れなくなったのには困った。

 「じゃあ、泊まっていけよ」と島の人から言われ、ファルー(船小屋)に一晩泊めてもらうことにした。僕が驚いたのは、夜中に島の若者がわざわざファルーを見回りに来てくれたことだった。客人に何かあったらいけないという心遣いである。

 夜が明けると、酋長自らがいかだを出して、かすみ網のようなもので魚を獲り、僕たちに朝食として出してくれた。その後、余ったとはいえ獲った魚を逃がしてしまうのを見て、思わず「もったいない」と言ったら、日本語が堪能なガアヤン酋長は「あなたたちは魚を冷蔵庫に入れる。でも、私たちは海に保存する」と言って笑った(彼は、その数年後の1986年、手作りのカヌーで、羅針盤も海図も使わず、波と星を読みながら、ヤップ諸島から小笠原諸島まで約3000キロの航海を見事成功させた人物である)。

 ヤップは自然に囲まれた自給自足の島だ。自然は、気候にしても食料にしても、僕たちが考える以上に過酷であり、決して暮らしやすい土地とは言えない。その後、ガアヤン酋長をはじめヤップの人たちと親交を深めるにつれ、彼らの言葉に嘘がないのは、自然を相手に暮らしている彼らにとって、人間の建前など所詮はなんの役にも立たないからだろうかと思った。

 だから、ヤップから帰国してまず違和感を覚えたのが、日本のTVコマーシャルである。有名なタレントが、たとえばクルマや薬の宣伝をしている。でも、彼らが乗っているのは実は別の高級車だったり、笑顔ですすめた当の薬は飲んでいなかったりする。日本にいれば当たり前なコマーシャルも、帰国直後に目にすると「なんでそんな嘘をつくんだろう?」という思いがこみ上げてきた。

 また、こんなこともあった。トップレスの女の子を見たくて行った僕も、島に1週間、10日、半月と過ごすうちに、裸に近い格好になってくる。その頃ちょっとした用事があって空港に行ったら、飛行機から降りてきた人たちを見かけた。ほとんどの人が乗り継ぎのためにいったん降りただけで、パラオなどが目的地だ。そんな彼らのリゾート向けの白いスーツ姿を金網越しに見ていると、たまらなく滑稽に映ってしまう。

 虚勢を張っているわけではないにしても、なぜかそう見えてしまうのだ。でも、服装にかぎらず、僕も日本にいるときは知らず知らずのうちに似たようなことをしてたんじゃないかと思えた。

 初めて訪れたヤップにハマり、僕はその後も頻繁に通うようになる。多いときには毎月のように行っていた年もあった。その理由を今ふり返ると、島の人たちのぬくもりにふれると同時に、彼らとは全部本音で話せるというのが、かけがえのない魅力だったように思えてくる。そしてそれは、日本がいつか失ってしまった一面でもあるように、僕には思えてしかたがない。

 電気のない島だったから、夜、ヤシ殻などを燃やして、みんなが集い語らっていたとき、ガアヤン酋長はこんなことを言った。「人間は明かりがないとこうして寄り添って心を開く。明かりがあると心を閉じてみんなバラバラになる」。

 

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在りし日のベルナルド・ガアヤン酋長



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3000キロの航海に向けて当時制作途中のカヌー

2008年12月19日