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アテナ映像

週刊代々木忠

修羅場をくぐって
  今回はある人物について書こうと思う。といっても、彼に会ったことはない。メディアの取材を通して彼を知っているに過ぎないのだが、それでもどこか親近感を覚え、その仕事ぶりを見たり読んだりするにつけ、「ああ、うれしいなぁ」という感情が自然と湧き上がってきた。

 人がよりよき人生を送る根幹は、自分が育った家庭にあると僕は思っているけれど、今や家族が崩壊しつつある。親が子を殺し、子が親を殺す世の中だ。そこまで行かずとも、たとえば子どもが引きこもった場合、子ども部屋にも入れない親たちがいる。子が精神を患っているケースもある。そうなると医者に連れていきたいわけだが、親ではとても手に負えない。

 本来ならば児童相談所や保健所が管轄なのだろうが、細かいフォローができてないことは容易に想像がつく。今からちょうど20年前、民間で「精神障害者移送サービス」を始めた男がいる。押川剛(おしかわ・たけし)その人である。当時、彼の会社は「トキワ警備」。その後「トキワ精神保健事務所」に社名を変更し、代表も部下にゆずっている。

 押川の個人HPのプロフィール欄にはこんな記述がある。〈1984年、常磐高校入学――高校は私立の男子校に進学。ワルの密度の高い学校だったため、危機管理の重要性を感じ、必然的に危険予測・危機管理能力があがる〉。彼が社名を変えても残した「トキワ」とは出身高校の「常盤」ではないのか。

 彼は僕より30歳下だが、同じ福岡県小倉の出身である。僕の入学した中学は常盤中学だった。彼は高校を〈ワルの密度の高い学校〉と表現しているけれど、そのニュアンスはよくわかる。僕も中学の初日、校門をくぐった途端「この学校、ヤバイな」と思った。むろん真面目なやつもいるのだが、ヤバイやつしか印象に残っていない。ところが、中学2年のとき、僕は問題を起こして補導され、ワルの密度の高い中学さえも退学処分になる。そして公立の中学に転校したので、高校は常盤には行っていないのだけれど。

 かつて精神障害者の移送といえば、布団などで患者を簀(す)巻きにして有無を言わせず連れていく強制拘束が当たり前だったというが、押川は自ら部屋に入り、患者を説得して、病院まで連れていった。始めた頃には軍用サバイバルナイフで足を刺されたこともあった。説得して医療につなげた患者は1000人を超える。押川でなければ、とても続けてこられなかった功績と言える。

 先に紹介したプロフィール欄に、彼自身こんなことを書いている。〈移送の現場は壮絶だった。ゴミだけでなく排泄物までもが堆積する部屋。大声で叫び、凶器を振り回す患者。しかしそんな彼らにも、ふとしたときに垣間見える本当の感情があった。それは病気の苦しみであり、理解しあえない家族への悲しみや怒りであった〉。

 押川は面構えもなかなかのものである。若い時分に体を張り、修羅場をくぐってきた人間は、痛みも知っているし、人の情けもわかっている。人は極限状況に追い込まれたときに己を知る。そのなかで本能はより高みへと成長を遂げ、天性が育まれる。それはコインの裏表みたいなものだが、彼はその振り幅が人より大きいように見える。谷が深ければ山が高いように。

 彼に憧れたり、影響を受けている人間はたくさんいるはずだ。世の中を変えていく者がいるとしたら、きっと彼のような人間だろう。同じ北九州からこういう男が出てきているというのはうれしいなぁと思うと同時に、これからも思う存分活躍していただきたいと心から願う。
2016年03月04日