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アテナ映像

週刊代々木忠

移住の夢
  製造も小売も金融もサービスも、明るい話はとんと聞かない。日本経済が停滞して久しいから、生き方を精神的豊かさ重視にシフトしている人も多いはずだ。貧困だけど幸せの国と言われるブータンが、あるいは世界でいちばん貧しい大統領のムヒカさんが注目されるのも、その顕われだろう。

 ただし格差は広がる一方で、子ども6人に1人が貧困だと言われる。メディアは老後破産だ、下流老人だと煽るから、先々のことを考えれば誰しも不安になる。たしかに最低限の食いぶちは必要だ。しかし、閉塞感に押し潰されてしまっては精神的豊かさどころではない。

 そんなときはなるべく自然にふれて、そのリズムを自分の中に取り込むのがいいと思う。川や海や大気が自らの働きで汚れを取り除くように、もともと自然の一部である人間も自然の中に身を置けば、疲弊した心はおのずと癒されていくものである。

 休日、都会の喧噪を離れて……にとどまらず、リタイヤ後の移住まで考えている人もいるだろう。何十年も仕事中心の生活を続けていれば、定年後は空気のいいところで自分らしくのんびり暮らしたいと思うのも無理からぬことだ。かく言う僕も、千葉の勝浦あたりに住みたいと思うことはたびたびなのだが、女房が首を縦に振らない。

 田舎暮らしは、都会に比べたら住居費をはじめ生活にかかるコストは低い。年金もあてにできないとなれば、ローコストはありがたい。ネットには田舎暮らしの物件情報がふんだんに載っている。風情のある古民家もあり、そんな画像を眺めていれば、おのずと夢はふくらんでいく。

 しかし、移住に失敗した人々はたくさんいる。その原因を見てみると、まず「仕事がない」。老後の資金があって貯金を取り崩しながら生活するつもりなら問題ないが、リタイヤ前だと最大の課題と言える。どこかに就職しなくても自分で稼げる技術や、地域を活性化させる知恵があれば、話は別だが……。

 田舎は人口の密度が低いけれど、人間関係の密度は高い。そこには、草刈りや清掃、祭りの準備など、その地域のしきたりや慣習もある。いずれにしても、移住したい場所に出会えたら、1年くらいは四季折々その地に足を運ぶのがいい。なかでも地域の祭りは絶対に見ておいたほうがいいだろう。地域の人々と挨拶を交わし、話を聞き、何度か通ううちに友達ができたら心強い。「ここに住みたいなぁ」と言ったとき、「おお、早く引っ越してこいよ!」と言われる関係なら、きっとその地で暮らしていける。

 僕は子どもの頃、隣が浄土真宗のお寺だったこともあり、祖母に連れられて和尚の説教をよく聞きに行った。そのなかで印象に残っている話がある。

 〈お百姓さんが畑仕事をしていると、旅人が通りかかる。「住むところを探しているんだけど、ここはどんな村ですか?」。お百姓さんは「あんたの前いた村はどうだった?」。旅人は「かくかくしかじかでひどく、もうあそこの村には住みたくないんです」。するとお百姓さんは「この村も同じだよ」と答える。何日かして今度は別の旅人が通りかかった。「この村に住もうと思うんだけど……」「前の村はどうだった?」「いやぁ、いい人たちばかりですごくよかったんだけど、いろんなところを回ってみたいと思って、それでこの村に……」「この村も同じで、いい人たちばっかりだよ」〉

 移住に限らず何事も「自分次第」であり、追いかけている夢がじつは「現実逃避」だとしたら、なかなか上手くいかないはずである。
2016年06月03日