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アテナ映像

週刊代々木忠

旧友再会
  4年ぶりに九州の友人を訪ねた。夕方、小倉駅に降り立つ。Oが迎えに来ていた。彼のレクサスに乗り込むと、これから彼女をピックアップして、3人で飯を食いに行こうと言う。「彼女って誰だ?」と思っていたら、4年前にも一度会っている女性だった。

 小倉から下関まで、ちょっと前があけば時速120キロでかっ飛ばすレクサス。「こりゃ、ジジイの運転じゃねえぞ!」と僕が言っても、「オレはまだ1回も事故やってねえよ」と涼しい顔でOはハンドルを握っている。着いたのは長州藩・毛利邸の近く、武家屋敷を改築した一軒の料亭だった。まわりを土塀が囲んでいる。「ゆっくり話せるところがいいだろうと思って」とOが言う。

 いったん昔話が始まれば、それこそキリがない。そんななか、Oが現在進行形の話題を半分自慢気味に切り出す。「週2回ないとオレは頭がおかしくなる」。横にいる彼女も否定しない。Oは僕より1つ上で今年79歳。彼女は41歳だ。79で週2回セックスができる・できないは、男性ホルモンが出ているか否かというところに話は移っていく。

 男性ホルモンが大量に出ている男は、精力も強いが浮気もするし、ケンカっぱやい。そんな性格をも彼女が丸ごと受け容れているのが一緒にいてよくわかった。懐の深い女なのだ。そしてOが今なお若さを保っていられるのも、彼女のおかげに違いない。

 小倉に戻る途中、往きと同様に彼女の家まで送っていくO。気の多いヤツが前の女と続いていると知ったとき意外な気もしたけれど、こうしてクルマで送り迎えするところを見ると、今は彼女にぞっこんなのだ。

 その後、Oはだんだん機嫌が悪くなった。駅に迎えに来てくれたとき、僕はどうしても外せない仕事が入って、あした東京に戻ると伝えた。彼としては料亭だけでなく、あれもしようこれもしよう、温泉にも泊まりで行こうと計画を立てていたようだ。そんな計画が、あれもできないこれもできないに変わってしまった。だから考えるたびに腹が立つのだろう。「1泊だけだったら、今度から来んな!」と言うOに、「Sに会いたいなぁ」と僕は言い出した。

 僕もOも、そしてSも、かつては同じ不良の組織にいた。僕が先にカタギになったのだけれど、昔の因縁から攫(さら)われ、小倉港に沈められそうになったことがある。結局殺されずに済んだものの、どうにも治まらない僕はその首謀者の家を突きとめ、待ち伏せしようとした。そんな僕に「あんた、何考えてるのっ! もうカタギになったんだから……」と諭したのがSだ。

 憤懣やるかたないといった感じのOは、僕の言葉に「わかったよ……明日の朝、つれてくるよ」と静かに言った。

 翌朝8時すぎ、Oから電話があった。Sをつれてホテルのラウンジに来ていると言う。すぐに下りていったが、レストランはバイキングをやっていて、空席はない。仕方がないので、小倉駅のステーションホテルに移動し、そこの喫茶店に入った。Sの奥さんも付き添いで来ていた。じつはホテルのラウンジに下りていくなり、「おい、久しぶり!」と声をかけたのだが、Sは僕が誰だかわからないようだった。認知症になっているとは聞いていたけれど、まさかここまでとは……。

 喫茶店に入ってしばらく話していると、突然、Sが「あっ! テルさんだよね!」と僕の本名を呼んだ。記憶がつながったのだろう。「今どこ住んでるの?」「東京だよ」。そこからかろうじて会話がつながってゆく。しかし、Sがトイレに立ち、戻ってきたときには再び僕がわからなくなっていた。新幹線に乗るまでの約2時間、Sは7回か8回「テルさんだよね?」と僕を思い出した。ただ、前に話したことはまったく覚えておらず、「今どこに住んでるの?」からくり返す。

 喫茶店を出て、別れ際、「元気でな。奥さん、困らせちゃダメだよ」とSの手を握った。でも、オレの言ったこと忘れちゃうよな、いや、今ですらちゃんと伝わってるのかどうか心許ないもんなと思わずにはいられなかった。

 50年前、おまえがオレを止めてくれたから、小倉で切った張ったの世界に再び足を突っ込むことなく、東京に出ていくことができたんじゃないか……。Sよ、オレがおまえを知っているだけじゃダメなんだ。オレの中におまえが生きていて、おまえの中にもオレが生きていないと……。関東に近づくにつれ、緑の田園風景が広がる車窓を眺めながら、僕はSにつぶやいていた。

 家に帰ると、女房と2人で食卓についた。こうして食事を作ってくれて、会話が成り立つことのありがたさを、僕はしみじみ感じていた。Sのことも話した。昔、家に泊りに来たことがあるし、女房が劇団を組んで九州に行っているときには「なんかあったら、いつでも連絡して」とSは言ってくれていた。きのう家を出るときも「よろしく伝えてね」と女房は言った。Sの状態を聞くと、女房は肩を落とした。

 これから先もし僕がボケたら、わがままで短気な僕はきっとSと同じように女房を困らせるような気がする。逆に女房がボケたら、僕はどこまでやさしくしてやれるだろうか……。



(「週刊代々木忠」は夏休みをいただきます。次に読んでいただけるのは9月2日(金)になります)
2016年07月29日