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アテナ映像

週刊代々木忠

『奇跡の脳』という奇跡の本
  今年の4月「日本製のみの市」というサイトのインタビュー取材を受けたのだが、取材者の三坂陽平さんから先月、一冊の本を紹介していただいた。メディアの場合、記事が掲載されればその後は連絡を取り合うこともないのがふつうだ。取材から半年後、わざわざ三坂さんが教えてくれたのがどんな本だったかというと、アメリカの女性脳科学者が書いたものだった。

 ジル・ボルト・テイラー『奇跡の脳〜脳科学者の脳が壊れたとき』(竹内薫訳、新潮文庫)。ハーバード大学で脳神経学者として活躍していたテイラー博士は、37歳のある朝、脳卒中に襲われ、副題にあるように脳が壊れてゆく。

 最初は左目の裏から脳を突き刺すような激痛。目を突き刺す光の流れを防ごうと窓のブラインドを閉じ、運動で血行を良くすれば少しは痛みが和らぐのではないかと試してみるが、結果は悪くなるばかり。脳の機能がどんどん失われて認識能力が途切れ、体も思うように動かせなくなっていく中で、脳のプロフェッショナルは自らに診断を下す。そのときの記述は次のとおりだ(表記は原文ママ)。

 〈(ああ、なんてこと、のうそっちゅうになっちゃったんだわ! のうそっちゅうがおきてる!)
 そして次の瞬間、わたしの心に閃いたのは……
 (あぁ、なんてスゴイことなの!)〉

 それまで人間の脳が現実に対する知覚を作り出す仕組みを研究してきたテイラー博士だが、それはあくまでも外側からのアプローチである。しかし今は、脳の機能が失われていくさまを内側から体験している。だから博士は、4時間という短い時間の中で脳が壊れていくプロセスを克明に記憶しようとする。

 とはいえ、脳が壊れてしまったままでは、それを誰かに話すことも、本に著わすこともできない。それができたのは、8年におよぶリハビリを経て見事復活したからである。脳卒中になる人はたくさんいる。そのなかには脳の専門家だっているだろう。けれども、自分の内側で何が起こっているのかを最初から記憶に留めようと自分に言い聞かせ、実際に復活を遂げて、本まで書ける人が果たして何人いるだろうか。その意味では、この本自体がまさに奇跡のように思えてくる。

 テイラー博士の脳卒中についてもう少し詳しく紹介しよう。彼女が損傷を受けたのは脳の左半球、つまり左脳だった。「早く助けを呼ばなくては」ということはわかっていても、その手順が思い出せない。その様子を博士はこんなふうに記述している。

 〈この朝のできごと以前のわたしは、こんなふうに脳にアクセスして情報処理を行っていました。
 まず、自分の脳の真ん中に座っている情景を心に思い描く。そこにはファイル用のキャビネットがびっしり並んでいます。思いつきや概念、記憶を探すときは、キャビネットをスキャンして、正しい抽斗(ひきだし)を探す。いったん、お目当てのファイルを見つけたら、そのファイルの中の情報のすべてにアクセスする。もし、検索しているものがすぐに見つからなかったら、ふたたび脳にスキャンさせて、最終的に正しいデータにアクセスする。
 ですがこの朝のわたしの情報処理の方法は、異常としか言いようのないものでした。脳の中の壁に沿って、ファイル用のキャビネットは並んだままでしたが、あらゆる抽斗はぴしゃりと閉じられ、キャビネットも手の届かないところに押しやられています。
 ここにあるすべての資料を知っていたこと、脳が豊富な情報を保持していることは思い出せます。でも、それはどこへ行ったの? たとえ情報があったとしても、わたしはもう、それを取り出せない)〉

 言語と記憶を並べる機能がなくなるばかりか、運動野も侵されて手足が思うように動かせなくなるなか、きっと博士は恐怖とともに生き地獄を味わったのだろうと推測する人もいるかもしれない。

 ところが、右脳だけになったとき博士が感じたのは、これまで一度も体験したことのない至福感だったという。自分の体が溶けて、宇宙と一体になったような感覚。もう孤独でもなく、寂しくもない。深い内なる安らぎと愛のこもった共感……。

 これはまさに深いオーガズムを体験したときの感覚ではないか。三坂さんが僕にすすめてくれたのも、そこに共通項を見い出したからだろう。次回は、この本を通して僕が感じた右脳の世界を、オーガズムと照らし合わせながら、みなさんと共有していけたらと思う。
2016年11月25日