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アテナ映像

週刊代々木忠

アーカイブス080 トマトは野菜ですね
  運転免許の更新において、70歳からは「高齢者講習」が始まるんだけど、75歳になると、さらにその前に「講習予備検査」というのを受けなければならない。早い話が年を取ると、やらなきゃいけない検査や講習が多くなるということなのだ。

 で、先日「講習予備検査」を初めて体験した。これは別名「認知機能検査」とも呼ばれる。まず教習所内の一室に受検者が集められる。この日、集まったのは、僕を含めて男性5名、女性1名の計6名。教官は30代とおぼしき青年。その青年教官が「腕時計をしている人はポケットかバッグにしまってください」と言う。

 何が始まるのだろうと思っていると、おもむろにイラストを見せられる。戦車や太鼓や人間の目やトマトなどなど、最終的には16枚の絵を見せられることになるのだが……。たとえば戦車の絵を見せながら、「これは戦争のときに使われますね」と幼い子どもに諭すように青年教官が言う。「太鼓は何ですか?(ちょっと間があって)はい、楽器ですね」といった調子で。

 「幼稚園児じゃねえんだからよ!」と内心思う。近くの席の男性も、不快を顔に出している。そりゃそうだ。ところが、である。人間の目のイラストをさして「これは何ですか?」と青年教官が訊いたとき、いちばん前の席にすわっていた紅一点の女性が「目!」と答えたのだ。ええーっ!? 「トマトは?」「野菜!」「はい、そうですね、果物じゃないですね、野菜ですね!」。

 切り替え、早いなぁと思う。それにひきかえ、僕は素直になれない部分があって、適当に聞き流していた。16枚全部の説明が終わると、教官はイラストをそそくさと棚に仕舞う。そして「お渡しした冊子の1ページ目を開いてください」と言う。

 そこには「今は何年ですか?」「今は何月ですか?」「今日は何日ですか?」と、バカでかい字(しかも総ルビ)で印刷されている。「いや、それはねえだろうよ」と内心毒づく。教官は「絶対に言葉を発しないでください。ヒントになりますから」。黙って僕も答えを書く。

 「次のページをめくってください」。指示どおりめくると、何も書かれていない。「そこへ時計の文字盤を描いてください。なるべく大きく描いてください」。大きな○を描いて、12、6、3、9と四方に数字を入れ、1、2、4、5……と間を埋めてゆく。「はい、それが終わりましたら、1時45分のところに針を描いてください」。仕方がないから真面目に描いた。免許を更新したいからね。

 「はい、次のページをめくってください」。マス目があって、1から16まで番号が打ってある。「先ほど見た絵を思い出して、それをひらがなでもカタカナでも漢字でも、何でもいいですから、覚えてるだけ書き込んでください」。まいったなぁ、そういうことか……。書けたのは11個だけで、残りの5個はどうしても思い出せなかった。

 ただし、次のページでは「楽器」「野菜」「昆虫」というようにヒントが示されている。ここでは16個全部を思い出して書けた。

 「認知機能検査」の結果が出た。100点満点中86点。76点以上は「記憶力・判断力に心配はありません」とある。日ごろから“物忘れ”には自信があるが、まだ認知症にはなっちゃいないということである。ちょっとうれしい。

 こうしてやっと「高齢者講習」にたどり着く。ここでは、目の検査。といっても若者は視力検査だけだが、僕らは「動体視力」「夜間視力」「視野」を検査測定する。そして、運転シミュレーター。どういうものかというと、モニターの中の直線を走っていて、赤・青・黄がアトランダムに出てくる。青はアクセルを踏みつづけ、黄はアクセルからいったん足を離して、また踏む。赤は即座に離してブレーキを踏む。次にはモニターの中のカーブを運転する。的確にハンドルを切れるかどうか。ただし、先ほどの赤・青・黄がまた予告なしに出てくる。同時に異なる2つの課題が正確にこなせるかどうかが試されるわけだ。

 それが終わると実際コースに出て、実車を運転する。S字や車庫入れなども課せられ、1人3~4周まわる。園児扱いされて不快を顔に出していた男性と「目!」「野菜!」と柔軟に対応していた女性、そして僕がたまたま同じクルマに乗った。

 2人は縁石に乗り上げるし、S字は脱輪するし、車庫入れでは下がっているポールにカキンカキン当てていた。もっとも、これは試験ではなく講習の一環なので、落ちることはない。この人たち、大丈夫かなぁ……。認知症チェックも重要だが、それ以前に技能面のほうがむしろ怖い気もする。

 すべての講習が終わると、先ほどの運転シミュレーターの結果が出た。「反応の速さとむら」「操作の選択と速さ」「正確なハンドル操作」「複数の課題への注意の配分」という4つの項目に対しておのおの5段階で評価される。

 総合評価だけ書くと、僕は「4」だった。「操作が組み合わさった時も、ハンドル操作は適切でした」と書いてある。「当ったり前じゃないの。何十年もの間、ほとんど毎日乗ってるんだから!」とドヤ顔したいところだが、「4」は同年代の中での評価。つまり高齢者の中で見たら……という数値だ。老若男女、すべての免許取得者の中で見ると、僕は「2」だった。

 講習を通して、僕は自分の立ち位置を認識した。「それも寂しいなぁ」という思いもあるにはあるけれど、「知れてよかった」という気持ちもある。「まぁ、受け入れていくべきだな」と僕は心の中でつぶやいた。



(2014年3月21日掲載)



 今年また免許の更新がある。通知のハガキは去年(誕生日の半年ほど前)に届いた。通知を受け取ってから1カ月後に、教習所に電話を入れた。本文にも書いた「講習予備検査」を申し込むためだ。そう、時計を描いたり、16枚の絵を思い出して書く「認知機能検査」のことである。

 ところが、電話してみて驚いた。これまで「認知機能検査」と「高齢者講習」は同じ日に行なわれていたが、今回は別々で、「認知機能検査」の予約は最短で2月にしか取れないという。そこで合格したとして「高齢者講習」が受けられるのは、なんと5月。もう更新の期限を過ぎているではないか。

 なんとか手はないかと電話に出た教習所の人にいろいろ訊いてみると、「鮫洲、江東、府中に運転免許試験場がありますから、そこに直接問い合わせてみたらどうですか」と言われて、電話番号を教えてもらった。

 いちばん近い府中にかけたが、これがぜんぜんつながらない。ハガキが届いてすぐに行動を起こさなかった僕も悪いが、まだ期限まで5カ月もあるというのに、これはどういうことなのか。でも、とりあえず電話をかけつづけるしかない。

 やっとつながって、11月の下旬に予約が取れた。やれやれだ。で、受けた結果は88点。合格。そして次の「高齢者講習」は1月中旬。これも合格した。これでやっと更新するための事前手続きが整ったわけである。

 でもなぁ、「認知機能検査」と「高齢者講習」は、これまでのとおり1日で充分こなせると思うんだけど……。なぜ2回に分けたのだろう。やはり高齢者には、できるだけ更新してほしくないという思惑があるのだろうか。実際、教習所だったら僕は更新できなかったのだから。

 今回無事に更新できても、新たな規定が加わっていた。「高齢運転者への臨時認知機能検査と講習の実施」というものである。これは、たとえば信号無視や通行禁止違反など、対象となる18の項目のいずれかで違反すると、1カ月以内に警察から呼び出しが来て、「臨時認知検査」を受けなければいけないというもの。18の項目の中には「安全運転義務違反」というのがある。信号無視ならわかりやすいが、安全運転義務違反とは? 拡大解釈すれば、何でもあてはまりそうだ。

 小さい子どもがいる僕の娘たちは、免許更新のこの流れに大賛成だと言う。いや、子を持つ親に限らず、世論もきっと大賛成だろう。高齢者の交通事故が社会問題となっている昨今、厳しくなったなぁとは感じるものの、僕もやはり妥当な措置だと思う。事故を起こさない運転をする。自分を過信しない。今まで以上に気を引き締めねばと思う。
2020年02月21日