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週刊代々木忠

アーカイブス092 結局、セックスとは何か?
  僕が若い頃は、先輩からたとえば「女はクリトリスをさわれば感じるから」とアドバイスされて、ドキドキするなかその教えを金科玉条のごとく実践したものである。だが、それで相手の女の子がイキまくったなんて話は聞いたことがない。

 その後、「女はこうすれば感じる」というノウハウは、口伝えの域を越え、男性誌で頻繁に特集されたり、マニュアル本としてたくさん出版された。さらには女性誌でもセックス特集が組まれ、女性向けのテクニック本も刊行されている。ということは、それだけ読者がいるということであり、多くの人が「セックスで相手を感じさせたい」と思っているわけだ。

 そして、その教えを実践しながらも、思うような結果が得られなければ、また別の教えを求めることになるだろう。今や情報は雑誌や書籍のみならず、ネットに溢れているから事欠かない。「キスのテクニック」「耳の攻め方」「クリトリスの攻め方」「Gスポットの攻め方」「潮吹きのテクニック」「アナルの攻め方」……と“技術論”は発達しているのだ。

 セックスを〈肉体の快楽〉という一面でとらえれば、たしかに技術論で充分なはずである。しかし、人には〈感情〉がある。「相手が愛おしい」とか「好き」といった〈感情〉を置き去りにしたまま、テクニックだけをいくら磨いたところで相手は感じないし、感じさせようとしているのは伝わってしまう。まぁ、それを気の毒に思えば、感じているフリくらいはしてくれるかもしれないが……。いずれにせよ、やっている当人も空しさが残るはずである。

 一方、女の子が好感を持っていれば、男のテクニックが稚拙であったとしても、うれし恥ずかしで感じてくる。男の場合もしかり。たとえばいちばん気持ちのいいフェラは、女の子が男を「愛おしい」と思い、本当にしゃぶりたくてしゃぶってくれるときなのだから。

 ただし、お互い好感を持っているにもかかわらず、相手がイマイチ感じないというケースもあり得るだろう。セックスにのめり込んでいないというか、自分を開いてこないというか……。これはセックスの最中、〈思考〉が働いている場合によく起こる。相手の行為を分析しているときもそうだが、多くは性的な行為に対する罪悪感に起因する。

 たとえば思春期、性に目覚めた自分を人は親に知られたくないと思う。エロ本やAVを隠し、動画の履歴を消し、自慰行為がバレないように注意を払う。性とはイヤラしいことであり、はしたないものであり、人に知られてはならない秘密なのだ。それがいつしか「気持ちよくなること」への罪悪感を生んでしまう。そして、本人が自覚するしないにかかわらず“よい子”を演じてしまうのだ。

 ある時期から僕は現場で無意識に「気持ちよくなるより幸せになれ」と女の子たちに言っていた。いま思えば、気持ちよくなろうとすれば罪悪感が首をもたげるけれど、幸せになろうとすれば罪の意識は感じないということだったのかもしれない。そしてお互いに目を見つめ合えば、思考は働かない。性交とはひと言でいえば心を交わらせることなのだから、上手だったかヘタだったかよりも、そのセックスが幸せだったか空しかったかのほうが、ずっと大切なはずである。


(2015年3月13日掲載)



 39年前、僕はヤップ島の浜辺で満天の星に出会った。太平洋のど真ん中の電気のない島で、月も出ていない夜だった。目の前に広がるのは、立錐の余地もないほど空と海を埋め尽くした大小無数の星々。生まれて初めて見る光景に、僕は打ち震え、涙が溢れて止まらなかった。

 大自然がもたらす至福体験。セックスがもたらす至福体験。いずれも分別する思考を落としてくれる。
2020年07月24日