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週刊代々木忠

利他
 格差社会である。コロナもそれに追い討ちをかけている。国も当てにはならず、結局頼りになるのが自分だとしたら、日頃から“損をしない”生き方を心がけるのは仕方ないことなのかもしれない。“損をしない”とは、裏を返せば「自分が得をする」ということである。

 僕はこれまでブログの中で「利他」という言葉を何回か使ってきた。「利他」とは「他人が得をする」という意味だから「自分が得をする」とは真逆になる。「将来にわたって安定が約束されているのなら、利他にも生きられようが」と思われるだろうか。

 「なぜ経営に『利他の心』が必要なのか」という講演録がある。2015年に稲盛和夫さんが立命館大学で行なった講演だ。その一部を紹介させていただく。

 〈私はよく研究者や経営者の方々から、次のような質問を受けることがあります。「経営に『利他の心』が大切だとあなたは言われるが、熾烈な市場競争により勝敗が決まっていく資本主義社会で、経営者が『優しい思いやりの心で仕事をしなければならない』などと甘いことを言っていては、経営などできないのではありませんか」〉

 稲盛さんは27歳で京都セラミック(現在の京セラ)を創業する。でも経営の経験はない。部下から次々に判断を求められ、何を判断基準にすべきか悩んだすえ、「人間として何が正しいのか」という一点に絞ったという。確立した経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」。

 言うだけなら誰にでも言えそうだが、稲盛さんの場合は実績に裏打ちされている。それは京セラだけでなく、52歳で創業した第二電電(現在のKDDI)においてもである。当時は電電公社が市場を独占していた。通信料金の高さが国民の負担になっているばかりか、情報社会の健全な発展をも妨げかねないと稲盛さんは考えた。しかし、通信事業の自由化に際して、王者を前にどこも戦いを挑もうとしない。

 稲盛さんが最初に手を挙げる。京セラが順調に成長していたとはいえ、京都の中堅企業である。のちに他の2社も参入してくる。1社は旧国鉄を母体とした日本テレコム。新幹線沿いに光ファイバーが引ける。もう1社は日本道路公団と建設省を母体とする日本高速通信。東名、名神の高速道路の側溝に光ファイバーが引ける。稲盛さんの第二電電には通信インフラがなにもない。ふつうに考えれば勝ち目のない戦(いくさ)である。

 〈そのような逆風の中、私は社員に向かって「国民のために、長距離電話料金を少しでも安くしよう。たった1回しかないこの人生を意義あるものにしようではないか」と事あるごとに語りかけました〉

 〈そうして、第二電電の社員たちは、自分の利益だけでなく、国民のために役立ちたいという「利他の心」にもとづいた大義を共有してくれるようになったのです。人は、社会のため、国民のため、つまり、公のためという「利他の心」にもとづく大義を掲げたときに、心から賛同し、惜しみなく協力することができます〉

 第二電電は新規参入の通信事業者のなかでトップを走りつづけ、KDDIとなり、売上と利益でNTTドコモを抜くことになる。

 そして、稲盛さんと言えば、日本航空の再建も記憶に新しい。2年前のブログ「ゴーン逮捕に思ったこと」にも書いたが、2010年、再建不可能と言われていた日本航空の会長に無報酬で就任し、翌期には航空業界で最も高収益の会社に生まれ変わらせ、3年足らずで再上場を果たしている。そして、その翌年には取締役を退任。

 第二電電以上に日本航空の再建など、誰も引き受けたくない話であったはずだ。それこそ負け戦だから……。受けた理由をこう語っている。

 〈「世のため人のため」になるのであればという「利他の心」から、半ば義侠心にかられて、日本航空の再建にあたることを決意いたしました〉

 でも、なぜ不可能なはずの再建が、稲盛さんにはできたのだろう? 講演録を読むかぎり、成功の要因は、経営理念を徹底した上での全社員の意識改革が大きかったようである。

 〈日本航空の経営幹部たちは、日本の一流大学を出たインテリたちですから、私が説くフィロソフィに対して、当初は違和感を覚えていたようです。「なぜ、そんな当たり前のことを、今さら学ばなければならないのか」と反発する者さえいました。私は、そういう人たちに、次のように言いました。「皆さんが『こんな幼稚なことを』と軽蔑するような、まさにそのことを皆さんは知ってはいるかもしれないが、決して身につけていませんし、まして実行してもいません。そのことが、日本航空を破綻に陥れたのです」〉

 社員一人ひとりの意識が変わっていくと、官僚的な体質はなくなり、マニュアル主義と言われていたサービスも改善されていったそうである。現場の社員が「利他の心」から自発的に努力するようになり、各職場で創意工夫を重ね、改善に努めた結果、業績は目に見えて向上していった。

 状況が苦しくなればなるほど、人は自分の利益を手放すまいとするし、なんとかして利益を得ようとするだろう。しかし「利己」は「利己」と共鳴する。だから、利益を得ようとする者たちを呼ぶことになる。つまり、そういう者同士の競争が新たに始まるのである。

 稲盛さんの言葉に〈人は「利他の心」にもとづく大義を掲げたときに、心から賛同し、惜しみなく協力することができます〉とあったけれど、行動を起こした人の中の「利他」が、まわりの人たちの中の「利他」と共鳴したに違いない。自分の会社の社員であったり、取引先であったり、お客さんであったりと……。

 そしてそれは、会社経営のみならず、日々を生きていく各々の場面で、必ずや起こるはずだと僕は思うのである。

2021年02月05日