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アテナ映像

週刊代々木忠

手術入院
  先月、膀胱がんの手術で6日間入院した。最初が2007年、次が15年、そして今回が3度目の手術になる。これまでよりも入院が少し長引いたのは、膀胱内の腫瘍切除とともに、狭くなった尿道を広げる手術も一緒に行なったからだ。

 腫瘍の切除は1時間くらいで終わり、術後の出血も少なかった。ただし、尿道拡張のほうは入れた管(尿道カテーテル)を抜いたあと、排尿のたび、僕は激痛にのたうち回った。

 ここまで読むと、さぞや大変な入院だったのだろうと思われるかもしれないが、じつは意外と楽しい日々だったのである。

 ふだん自粛生活をしていて、友達とはなかなか会えない。僕や女房に移してはいけないと娘たちが気をつかい、孫に会う機会も減った。女房とは対話しているものの、人と接する機会は格段に減ってしまっていたのだ。

 ところが入院してみると、担当医、麻酔医、看護師、栄養士、掃除をしてくれる人と……いたるところに会話が待っていた。

 たとえば病室の掃除をしながら「家族の方が面会できないから、奥さんもご心配でしょうねぇ。お子さんもいらっしゃるでしょうし」と声をかけてくる。「娘はこうで」「孫はこうで」と僕が話せば、「いやぁ、可愛いですよね。私にも孫がいて」という話になる。お互いプライベートな話ではあるが、深入りはせず、しゃべっていて心地いい深度なのだ。

 担当の看護師は、朝と夜、12時間で交代になる。朝来ると名札を見せながら「○○です。きょう一日よろしくお願いします。具合どうですか? 食欲ありますか?」から始まって「今回3回目ですよね?」とか、データを見ながら病状について話をする。彼女たちとは別に、朝から夕方まで各病室の患者を看る看護師もいる。

 病室の窓からは、隣接している看護大学の建物が見えた。「あなたも、あそこ出たの?」と訊いたら「ううん、私は別のところ」と言う。「全員があそこを出た人たちじゃないんだね」と言えば「前は違う病院にいたんだけど、こっちのほうが待遇いいから」といたずらっぽく笑う。そんな軽口も、こちらの心を和ませる気づかいのように感じられた。

 昨年の夏、尿路結石で入院したときには一睡もできず、丹田呼吸を続けるしかなかったけれど、今回はぐっすり眠れた。「初めてここでゆっくり寝られたよ!」と声をかけたら、「寝られそうだったんで、点滴に入れときました」と言う。前夜、病室を訪れたとき、僕の様子を見て、これなら導眠剤でひと押しすれば眠れそうだとプロにはわかったのだろう。

 心のケアと信頼感に加えて、僕は母性的なものも看護師たちに感じていた。手術のときだった。最初、手術用のベッドに横向きで寝て、脊髄に注射を打つのだが、針が大きいため、その痛み止めの麻酔をまず先に打つ。背中を丸めた僕の前にまわった彼女がいろいろ語りかけてくる。僕を抱くようにしながら、「私にしがみつくくらい背中をもっと丸めてください」。

 僕が入院した病院にコロナ病棟はなかったけれど、それでも看護師たちの献身ぶりには本当に頭が下がる。病(やまい)になれば、自分の体でありながら、医師に看護師に身をゆだねるしか術がない。弱い立場になったときほど、人のありがたみが身に沁みるものである。

 かつてビデオに出た看護師から「戴帽式(たいぼうしき)にはナイチンゲール誓詞(せいし)を唱和するんですよ」と聞いた覚えがある。調べてみると、誓詞は最後こう結んでいた。

 「われは心より医師を助け、わが手に託される人々の幸(さち)のために身を捧げん」

2021年03月26日