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アテナ映像

週刊代々木忠

メロディー
  3年前にプーを亡くしてから、愛犬はメロディーだけになった。プーにはうつのときずいぶん助けてもらったから、僕も精一杯の愛情を注いだ。そして今はそれをメロディーが一身に受けている。

 去年コロナで自粛して以降、ふたたび事務所に行くようになっても、毎晩8時には女房と一緒にご飯を食べるようにしている。事務所を出るのはだいたい7時ごろである。女房が言う。「あなたが会社を出たのがわかるのよ、メロディーを見ていると」。急にそわそわし出して、玄関に行ったり来たりをくり返し、ときには訴えるように吠えるのだと言う。

 道路の渋滞によって多少前後するものの、帰宅時間はだいたい決まっている。メロディーの体内時計にも、それは記憶されているのかもしれない。しかし、事務所から家まで何分かかるのか、メロディーは知らない。帰宅時間から逆算して「今、会社を出た!」とはならないわけである。ならば、どうしてメロディーにはそれがわかるのだろう。

 家に帰ると、メロディーは僕のそばから離れない。食事をしているときも足元にいる。近所に買い物に行こうとして玄関でサンダルを履いていると、メロディーは僕をめがけて飛びついてくる。抱きとめると腕に座り、背中を僕にあずける。僕と同じ方向、つまり前を向いて座っているのである。その格好のまま、僕たちは買い物に出かける。

 地震が起きたり、カミナリが鳴ったりすると、メロディーは慌てて僕か女房の体によじ登り、ガタガタと震えている。一方、プーは地震もカミナリもおかまいなしに、犬用の小さなボールを咥えてきて、僕を鼻でつつきながら「投げてよ!」「遊ぼうよ!」と言ってきた。女房が郵便物を取って玄関に入ってくると、プーは「咥えさせて!」と催促し、渡された郵便を僕のところまで運んできた。ご褒美にオヤツがもらえるからというのもあるだろう。でも、そればかりではない。自分のしたいことを彼なりの方法で僕たちに伝え、一緒に遊ぶことをプーは好んだ。

 ところが同じトイプードルでも、メロディーはそういう意思表示をまったくしない。「遊ぼう!」とオモチャを持ってこないし、郵便物を「咥えさせて!」とも言わない。じつは2匹とも飼ってすぐに犬の訓練所に4カ月ほど預けた。「お手」「伏せ」「待て」はもちろんのこと、散歩のときには勝手に先に行ったりせず飼い主の横にピッタリついて歩く。ただし、プーだけ。メロディーはなにも覚えずに帰ってきた。プロのドッグトレーナーもお手上げだったのである。

 プーはオス、メロディーはメスだが、それなりに洗練され、人とのコミュニケーションも如才なくこなしたプーがシティーボーイで、対照的なメロディーが野生のメスに思える。もちろんどちらも可愛いのだけれど。

 コロナ禍で以前みたいに孫にも会えないなか、メロディーにはずいぶん救われている。僕が事務所を出たことがわかるのは、視覚でも聴覚でも嗅覚でもなく、お互いに愛情を注ぎ合った結果、どこかで僕たちがつながっているからではないかと思うのだ。

 そのメロディーも12歳になる。老犬は老犬である。この先、何年生きられるのだろうか?とふと頭をよぎる。そんなことを言いながら、自分も83歳だ。「あと何年」は、なにもメロディーだけの話ではない。生きている限り、僕はメロディーとスキンシップを取り、甘やかしつづけるに違いない。






(「週刊代々木忠」は夏休みをいただきます。次に読んでいただけるのは9月3日(金)になります)

2021年07月30日