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アテナ映像

週刊代々木忠

続・香港珍道中
 

 なんとか間に合って乗り込んだ飛行機が、数時間後、着陸態勢に入った。高度が少しずつ下がってくる。香港空港も見えてきた。ところが、そのままランディングするのかと思いきや、機体はいきなり上昇を始める。え? なんで?

 

 機内アナウンスによれば、緊急着陸の飛行機が出たので、しばらく上空で待機するという。隣の席の齋藤さんが「監督と旅すると、絶対なにかトラブルがあるんだよね」と笑う。

 

 40分以上遅れて到着したものの、今度は、僕が成田でX線検査に引っかかりJALのカウンターに並び直して預けた荷物が最後まで出てこない。その場にいた係の人間に「これで全部?」と訊くと「YES」と言う。仕方がないのでカタコトの英語と身ぶり手ぶりで、成田での状況を説明した。すると「ちょっと待ってろ」とどこかに行った。

 

 あまりに僕が遅いので、齋藤さんと明石さんがやってくる。旅慣れた彼らは荷物を預けてないから、いつでも動ける状態だ。僕も以前は旅慣れていたつもりだったが......。2人に詫びつつ、この場の状況を説明すると、「続くね」と齋藤さんが笑う。

 

 探しに行った係の人が、僕の荷物を持って返ってきた。こうしてやっとのこと、僕たち3人は、空港まで出迎えてくれた香港大学の王向華先生、そして彼の教え子たちと対面できたのである。王先生は五十がらみの気さくで穏やかな人だった。

 

 僕たちは大学から差し向けられた大型のワンボックスカーに乗り込み、小一時間のドライブで香港大学に到着した。広大なキャンパスだ。そこには僕たちが泊まる施設もあった。100年前に建てられたという来賓宿泊施設は、レトロな薫りを漂わせている。

 

 チェックインでは、ホテルと同様、フライトNOとパスポートNOを書き込み、氏名の欄を見ると、そこには「Dr」とすでに印刷されていた。ここに宿泊するのが他校の教授たちだからだろうと思いながら、僕は「Dr」を2本線で消して自分の名前をサインした。

 

 ところがである。実はその下に「Mr」「Miss」の欄があったのを後で知ることになる。僕は結局なにも見ていなかったのだ。また齋藤さんに笑われた。

 

 その後、教授専用のレストランで軽食をとったのだが、香港が一望できる建物の最上階にあり、まるで一流ホテルにいるかのような錯覚に陥る。英国紳士風の男たちが各テーブルで談笑していた。きっと「Dr」たちに違いない。

 

 午後7時に、王先生のミーティングルームで、講演の事前打ち合わせに入る。講演では自分の作品の一部上映と、エニアグラムのチャート数点を映写使用することを前もって王先生に伝えていたこともあって、アシストしてくれる学生たち(女子学生3人、男子学生1人)も参加しての打ち合わせになった。

 

 女子学生のなかには東大を卒業し現在博士課程の子もいたが、彼女に限らず、学生たちのレスポンスはきわめて早い。一を聞いて十を知るとはこういうことかと、僕は感動すらしていた。

 

 その夜は、王先生、先生の奥さん、学生4人、そして僕たちの合計9人で街に繰り出した。日本では、飲み屋をハシゴすることはあっても、食事でハシゴはふつうしない。ところが、王先生は飲茶を食べたあと、海鮮料理を食べに行こうという。

 

 3軒目は海に近い酒場だったが、そのころになると、9人の心が打ち解けてきたのを僕は感じていた。それには、学院長夫人でありながら庶民的で、場を和ませるのがうまい奥さんの存在は大きかったかもしれない。これならば、明日の講演もうまくいくのではないだろうか。僕は少しだけホッとしていた。

 

 夜遅くまで楽しい時間を過ごし、僕たち3人は宿のある香港大学へと戻った。しかしである。来賓宿泊施設は鉄格子の扉に固く閉ざされ、中へ入れない。門限を過ぎたということだろう。押せども引けども、堅牢な扉はビクともしない。あたりには人もいない。どうやって中に入ればいいのだろう。僕たち3人は深夜、異国の地で途方に暮れていた。僕は明日の講演がまただんだん不安になってきた......。

(つづく)



 

2010年04月30日