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アテナ映像

週刊代々木忠

「YANNI TRIBUTE」
 


 中学生のころ、米軍キャンプで僕はアルバイトをしていた。ちょうど朝鮮戦争のさなかだったので、北九州には米軍キャンプがたくさんあったのだ。

 親しくなった一人の黒人兵士が戦場へ行く前日、「これ全部おまえにやるよ」とたくさんのレコードをくれた。ジーン・クルーパーやマイルス・デイビスをはじめとするジャズの名盤ばかりだった。といっても、当時の僕にはすべてが初めて聴く曲である。世の中にはこんな音楽があるのかぁ......と、めまいを覚えた。

 それからというもの、ジャズを聴きあさった。ジャズに魅了される一方、九州という土地柄、和太鼓にもハマッていく。そんなところへ、ラテン系の音楽が入ってきて、マンボの時代が訪れる。ラテン音楽は肌に合った。フラメンコも聴きはじめた。こうしてその後もいろいろなジャンルの音楽に僕はふれてきた。

 今、音楽に関して思うのは、次のようなことだ。

 民族音楽的なリズムは「本能オクターヴ」と共鳴する。たとえば鬼太鼓座(おんでこざ)や鼓童(こどう)の音は、本能に響き、本能を揺さぶる。ラテン系やアフリカンビートも本能オクターヴを直撃する。

 フラメンコやタンゴや演歌などは「感情オクターヴ」を癒す。17世紀末、フラメンコを生み出した感性の民ジプシー。そのフラメンコは20世紀に芸術にまで昇華する。フラメンコのドンであるペトロ・ぺーニャは言う。「フラメンコは人類の大切な遺産だ。感情、心がこもっている並はずれた音楽だ」と。わが国においても、敗戦によって日本人のプライドは傷つき、感情がズタズタになったのを癒してくれたのは、演歌だった。

 一方、クラシックには「思考オクターヴ」が反応する。クラシックを聴くことにより、考え過ぎを中和しているのかもしれない。

 このように音楽のジャンルによって、共鳴する「オクターヴ」も変わってくる。ところがである。ひとつの音楽で「本能」も「感情」も「思考」も同時に癒してしまう音楽がある、と言ったら驚かれるだろうか。

 それが「YANNI TRIBUTE」である。これはヤニーが、中国の紫禁城とインドのタージ・マハルでのライブを収録したものだ。「YANNI TRIBUTE」は音楽だけのCD版と、映像と音楽のDVD版が出ているが、僕はDVDのほうを断然お薦めする。なぜならば、映像と音楽を同時に体に入れることによって、魂が揺さぶられる効果はいっそう高まる。実際、カメラワークも編集も上手い。

 ヤニーのありように共感し、触発され、術を競い合ったソリストたち、まさに現代の匠たちが奏でる異次元の世界。私たちはどこから来て、どこへ行くのかに気づきはじめたアーティストたちの饗宴。「本性」「感性」「知性」の融合。それが「YANNI TRIBUTE」である。

 僕はその映像と音楽にふれたとき、まず鳥肌が立った。圧倒的な音のメッセージ性。研ぎ澄まされた旋律。本能を揺さぶるリズム群。そして三位一体のハーモニー。すべてをゆだねるに値する世界に包まれていた。なぜかうれしかった。気がつくと、涙があふれていた。

 

2010年05月28日